世界を旅して、地元に出会い直す、IKI LUCAが久留米絣で紡ぐ「どう生きるか」

銀行員として東京、サンフランシスコとグローバルにご活躍されていたIKI LUCAディレクターの小倉知子さん。その後シンガポールに渡り、資産運用の世界で働いた後、アフリカ・モザンビークでの銀行設立プロジェクトにも携わりました。

そんな、一見すると久留米絣(くるめかすり)とはまったく違う世界を歩いてきた小倉さんが、地元・久留米で出会い直したもの。

それが、子どもの頃からそこにあった「久留米絣」でした。

世界を旅したからこそ気づいた、地元にあるものの価値。
そして、人生における一つひとつの小さな選択。

「どう生きるか」という言葉をブランド名にしたIKI LUCAには、小倉さん自身が歩いてきた道と、これからの未来への想いが重なっています。

今回、IKI LUCAを立ち上げた小倉さんに、その原点からお話を伺いました。

 

離れたからこそ、見えてきた地元のこと

小倉さんの地元は福岡県久留米市。

高校から長崎へ、大学進学を機に東京へ。その後、銀行員として東京からサンフランシスコに赴任し、銀行を退職した後はシンガポールへと拠点を移しました。

長い間、久留米を離れて暮らしていた小倉さん。

けれど、帰省するたびに、少しずつ変わっていく街の姿が気になるようになったといいます。

かつて賑わっていた中心街。
子どもの頃にはもっと大きく感じた百貨店。
自分の中には、今も「キラキラしていた頃の久留米」の残像がある。

「たまに帰ってくるたびに、ちょっとずつ寂しくなっているように感じて。もう少し元気な街だったのにな、と思っていました」

いつか、自分も地元がもう一度元気になるようなことに関われたら。

当時はまだ、それが具体的な仕事や計画になっていたわけではありません。

東京や海外へ戻れば、また目の前の日常が始まる。
けれど心のどこかには、その想いがずっと流れていました。

 

「帰省する」だけではなく、人に会いに行ってみる

シンガポールで働くようになり、少しずつ仕事以外のことにも目を向けられるようになった頃、小倉さんの久留米への帰省の目的が徐々に変化していきました。

実家に帰るだけではなく、

「今、久留米ではどんな面白いことが起きているんだろう」

ということが気になり始めたのです。

インターネットやFacebookで地元の活動を探し、面白いと思った人がいれば、自分から連絡して会いに行く。

その中の一人が、久留米絣に関わる活動をしていた女性でした。

地元のお酒を久留米絣でラッピングして母の日・父の日に届けるクラウドファンディングなど、久留米にあるものを新しい形で届けようとしていた彼女の活動に惹かれ、メッセージを送ります。

帰国のタイミングで久留米のカフェで会い、それから帰省するたびに近況を話すようになるうちに、久留米絣を使ったものづくりをする人や店にも足を運ぶようになります。

そしてある日、久留米絣のスカートを初めて自分で購入しました。

久留米で育った小倉さんにとって、久留米絣はもちろん昔から知っている存在。

でも、

「知っていること」と、
「自分の暮らしの中にあること」は違う。

子どもの頃から身近にあった久留米絣が、大人になって初めて、自分自身の生活の中へ入ってきた瞬間でした。

 

世界を旅してわかった、「なんか、いい」

購入した久留米絣を、小倉さんはシンガポールへ持ち帰ります。

特別な日に大切に着るのではなく、日常の中でどんどん使う。

シンガポールで暮らしながら、小倉さんはその後、モザンビークで新しい銀行を立ち上げるプロジェクトにも参加します。

シンガポールから赤道を越え、年に何度もモザンビークへ。

そんな旅にも、久留米絣のパンツやスカートを持っていきました。

そこで改めて気づいたのが、その「使いやすさ」でした。

洗濯しても丈夫。
自分で洗えて、乾きやすい。
天然素材だから、長いフライトでも心地いい。

何度も洗い、さまざまな土地へ持っていくうちに、いつの間にか久留米絣は小倉さんの旅の定番になっていました。

「その時はうまく言語化できていなかったんです。ただ、体感として『これ、なんかいいよね』と思っていて」

伝統工芸だからでも、有名だからでもない。

実際に使い続けることで身体が感じた「なんか、いい」。

IKI LUCAにつながる種は、この頃から少しずつ育っていたのかもしれません。

 

パタゴニアで生まれた「旅する絣」

その後、日本へ戻った小倉さんに、キャリアを立ち止まって考える時間が訪れます。

金融の仕事を続けるという選択肢もあった。

でも、忙しい仕事を続けながらでは、自分が本当にこれから何をしたいのかを考える余白を持つことが難しい。

そこで、すぐに次の仕事を探すのではなく、一度立ち止まることを選びました。

そんな時期に訪れたのが、南米・パタゴニアでした。

国立公園で一日を過ごし、ホテルへ戻ったらリラックスして過ごす。

その時も小倉さんは、いつものように久留米絣のスカートを履いていました。

すると、同じホテルに滞在していたニューヨークから来た女性が、そのスカートに目を留めます。

「素敵ね。触ってもいい?」

生地に触れた彼女は、

「これ、どこで買えるの?」

と尋ねました。

その瞬間、小倉さんの頭に浮かんだ言葉がありました。

「旅する絣」

久留米から世界へ。

自分が旅先で感じてきた久留米絣の心地よさを、もっといろいろな人に届けられるのではないか。

海外が好きだった自分。
いつか地元・久留米に関わりたいと思っていた自分。
そして、知らないうちに旅の相棒になっていた久留米絣。

それまで別々に存在していたものが、その瞬間、一つにつながりました。

 

「どう生きるか」から、IKI LUCAへ

ブランドを立ち上げる少し前のある朝。

目を覚ました小倉さんの頭に、ふと、

「どう生きるか」

という言葉が浮かびました。

「『いきるか』っていいかな、と思って友達にメッセージしたら、『めっちゃいい』って返ってきて」

そこから生まれたのが、IKI LUCAという名前でした。

けれど小倉さんにとって「どう生きるか」は、決して大げさな人生論ではありません。

私たちは毎日、小さな選択を繰り返しています。

何をするか。
何をしないか。
どこへ行くか。
誰と会うか。
そして、今日何を着るか。

「一つひとつの小さな意思決定で“今”ができて、その今の積み重ねが、いつか振り返った時に人生になっていると思うんです」

だから、そのたくさんの選択肢の中に、IKI LUCAがあればいい。

今日は少し気分を上げたいから、赤いスカートを。
今日はゆっくり過ごしたいから、藍の服を。

人生を変えるほど大きな存在ではなくてもいい。

日々の選択にそっと寄り添い、少しだけ気持ちを豊かにしてくれる。

それが、小倉さんが考えるIKI LUCAです。

 

長く使うからこそ、シンプルに

IKI LUCAの服は、どこか静かです。

久留米絣という存在を強く主張するのではなく、手持ちの服とも自然に合わせられるシンプルなデザイン。

そこにも理由があります。

久留米絣は丈夫で、長く使うことのできる素材。

だからこそ、一時的な流行や強いデザインではなく、何年経っても暮らしの中に置いておけるものにしたい。

そして、小倉さん自身が「着たい」と思えるものを作りたい。

「久留米絣の商品には、素材はすごくいいのに、自分だったら手に取らないなと思うものもありました。でも、自分と同じように感じている人もいるんじゃないかなって」

まず見た瞬間に、

「素敵だな」
「着てみたいな」

と思う。

そして実際に暮らしの中で使っていくうちに、その心地よさに気づき、その向こう側にある久留米絣の物語にも出会っていく。

伝統だから着るのではなく、好きだから着る。

その順番も、IKI LUCAらしさなのだと思います。

 

「残す」のではなく、次の100年へつなぐ

久留米絣について知れば知るほど、小倉さんが惹かれたのは、生地そのものだけではありませんでした。

その向こう側には、土地の自然、人々の暮らし、先人たちの工夫や知恵、そして長い時間をかけて受け継がれてきた物語があります。

だからといって、昔の形をそのまま残すことだけが正解ではない、と小倉さんはいいます。

「残すというより、それぞれの人が『いいな』と思ったエッセンスをその人なりに解釈して、その時代に合う形に少しアップデートしてつないでいけばいいと思うんです」

自分が受け取ったバトンを、今の自分なりの形で次の世代へ。

そして次の世代がまた「いい」と思ったなら、その人たちなりの方法で、その先へ。

そんなふうに、次の100年へつながっていったらいい。

IKI LUCAは、久留米絣を“保存する”ブランドではなく、今を生きる人の暮らしの中へ、もう一度つなぎ直すブランドなのかもしれません。

 

人生のそばにある、一着

IKI LUCAを続ける中で、小倉さんのもとには、お客様からさまざまな言葉が届くようになりました。

いつか本屋を開きたいと準備をしている方は、

「お店をオープンする日に、この赤いスカートを履きたい」

と一着を選びました。

先延ばしにしてしまわないように、今日この服を買って、目に見えるところに置いて頑張ります、と。

還暦を迎える夫へ、IKI LUCAの服を贈った方もいます。

普段は服にあまり頓着しないというご主人がその服を気に入り、今ではお気に入りの散歩コースへ出かける時によく身につけているそうです。

人生には、大きな節目もあれば、何気ない一日もあります。

そのどちらにも、服は存在しています。

何かに挑戦する日の背中を少し押したり、
大切な人との時間を心地よく過ごしたり、
何でもない一日を少しだけ豊かにしたり。

「その人にとって、お守りのような存在になれたら本当に嬉しいです」

どう生きるか。

その答えはきっと、一つではありません。

けれど今日、自分にとって心地よいものを選ぶこと。
好きだと思えるものを身につけること。
自分の気持ちを大切にすること。

そんな小さな選択の積み重ねもまた、「どう生きるか」なのだと思います。

世界を旅し、遠く離れた場所から地元に出会い直した小倉さん。

その旅から生まれたIKI LUCAの服は今日も、誰かの日常にそっと寄り添いながら、久留米から次の物語へと旅を続けています。