素材を束ね、未来へつなぐ。 「絲 tabane」にかける寺島保太良商店の挑戦

金銀糸は、古来より日本の装束や祭礼文化に深く関わってきた素材です。純金・純銀を用いた糸は、かつて高貴な衣装装束にも用いられ、現在でも豪奢な呉服や神事・祭礼の飾り幕として受け継がれてきました。祇園祭や大相撲の化粧まわしの背景にも、金銀糸の歴史的価値が息づいています。

「絲 tabane」は、そんな金銀糸の“束(たば)”の表情をそのまま生かし、シンプルなかたちのアクセサリーとして生まれたブランドです。素材そのものの佇まいと、職人・作り手・クリエイターの知恵が結び合うことを「たばねる」という言葉に重ねています。

京都・西陣で、祇園祭をはじめ全国の祭りや神事に欠かせない「金銀糸」をつくり続けてきた工房があります。

寺島保太良商店。創業は明治30年。
表に名前が出ることはほとんどなくても、幕や刺繍の奥で確かに“主役の背景”を支えてきました。

今回は、その寺島保太良商店が「絲 tabane」に託す想いと、金銀糸のものづくりの現在地について、「寺島保太良商店」の代表、金銀糸職人である寺島さんにお話を伺いました。

― まず、寺島保太良商店について教えてください。

寺島:うちは金銀糸屋です。金糸・銀糸をつくって、それを西陣織や刺繍、祭りの幕などに使っていただく仕事をしています。
金銀糸といっても用途はいろいろで、うちはどちらかというと祇園祭の幕や、相撲の化粧まわしなど、“祭りや神事”に使われる刺繍向けの金銀糸が多いです。

― 歴史はどれくらい続いているのでしょうか?

寺島:創業は明治30年です。ただ、会社にしたのは戦後なので、創業から数えると5代目、会社としては4代目になります。なので一応4代目って言っています。
面白いのは、明治30年という根拠が、組合の年表に名前が載っているだけなんですよ。京都らしいというか(笑)。

― 西陣業界の現状は、正直どうですか?

寺島:最盛期、組合は120件ほどありましたが、今は23件です。西陣全体でも、ピークから見ると10分の1以下だと言われています。
外から見ると、ラグジュアリーブランドとの取り組みなどで華やかに見えるかもしれませんが、実際に続いているのはごく一部だと思います。

― 金銀糸の「本金」と「イミテーション」の違いは?

寺島:見た目は似ていても、光り方も、工程も、考え方も全然違います。本金は、和紙に漆を引き、金箔を一枚一枚押します。漆があるからこそ、金箔の光が生きるんです。
一方で多く流通しているのは、フィルムに銀をコーティングし、その上から色を乗せたものです。フィルムは“ペカッ”と光ります。本金は、どこか落ち着いた光を放ちます。実物を見ると、すぐに違いがわかります。

― 技術継承の難しさについて教えてください。

寺島:助成金が出ても、解決しない部分が多いと思っています。技術って、毎日手を動かさないと残りません。
しかも金銀糸は分業制です。漆、金箔、裁断、撚り——どこか一工程が止まると、全部が止まります。職人さんは70代、80代が中心で、一人辞められると、その工程ごと消える可能性もあります。
工房の環境そのものも不安定になりやすいです。小さな工場ほど賃貸で仕事をしていることも多く、相続などをきっかけに「出て行け」という話になることも珍しくありません。

― そんな中で、なぜアクセサリーを?

寺島:「このままやと、なくなる」——そう思ったのが正直なところです。
素材としての金銀糸は、何かに加工されないと価値が生まれにくい。僕らもずっと「織物にせなあかん」「刺繍にせなあかん」「組紐にせなあかん」って思っていました。
でも、ジュエリーデザイナーの方に「金銀糸そのものが一番きれいじゃない?」と言われて、ハッとしたんです。

― 「絲 tabane」という形に行き着いた理由は?

寺島:僕らが普段、刺繍職人さんにお渡しするときの形。それが“束ねた金銀糸”なんです。
最初は「これでいいの?」と思いました(笑)。でも、何もしないからこそ、素材の美しさがそのまま出ます。だから「束ね(tabane)」という考え方が、そのままブランドになりました。

― 海外からの反応はいかがですか?

寺島:コロナ明けから増えましたね。刺繍作家さんやテキスタイル作家さんが、ネットで調べて突然来られることもあります。
また、取引先の百貨店様などでも、インバウンドのお客さまに「すごくいい」と言っていただけることが増えてきました。

― 最後に、寺島保太良商店が「絲 tabane」に託すものとは何でしょうか?

寺島:儲からへんだけなら、やめられます。でも、なくなったら困るものがあります。
祇園祭でも、地方の祭りでも、年に一度、何万人もの人が集まります。その中心で、自分たちの金銀糸が揺れている。「ああ、役に立っているな」って思えるから、続けているんだと思います。

編集後記

金銀糸は、主役にならない素材です。けれど主役が輝くために、その奥で確実に役割を果たしてきました。「絲 tabane」は、そんな素材の“存在そのもの”を、私たちの日常へと引き寄せる試みです。

受け継ぐために、形を変える。
束ねた光の先に、未来をつなぐ挑戦があります。