伝統を超えて、世界へ。JINSUI代表取締役 渡邉裕介 が語る“常滑の未来”
千年の歴史を誇る焼き物の里、愛知県・常滑。
日本六古窯のひとつとして知られるこの地では、古くから急須や茶器を中心に、
日々の暮らしに寄り添う器づくりが受け継がれてきました。
その伝統の土を現代に生かし、新たな美と機能を追求するのが「JINSUI(人水)」です。
職人であり、代表取締役でもある渡邉さんが生み出す茶器は、常滑の土が持つ温もりに、モダンなデザインの洗練を重ねたもの。
“使う人の時間を豊かにする器”として、今、世界から注目を集めています。
― まず、JINSUIというブランドについて教えてください。
渡邉:
「JINSUI(人水)は、愛知県常滑市で100年以上続く窯元から生まれたブランドです。
常滑の良質な土と技を受け継ぎながら、現代の暮らしに合う茶器づくりをしています。
伝統工芸といっても、“守る”だけではなく、“進化させる”ことが必要だと思っています。」
― 渡辺さんはもともと職人ではなく、花屋からスタートされたとか。
渡邉:
「そうなんです。もともとは花屋で働いていました。手を動かすことが好きで、
“自分で企画して形にする”ということに興味があったんです。
でも次第に、もっと大きなスケールでものづくりをしたくなって、
30歳のときに家業を継ぐことを決めました。
コロナの時期をきっかけにブランドを見直して、
“伝統を守る”から“伝統をアップデートする”方向に舵を切りました。」
― 常滑焼といえば急須が有名ですよね。JINSUIの急須にはどんな特徴がありますか?
渡邉:
「まず“軽さ”ですね。常滑の土は本当に良質で、薄くても強度があり、とても軽いんです。
手にした瞬間に“心地いい”と感じていただけるように設計しています。
それから、形の美しさと機能性を両立させることも大切にしています。
使う人の時間を美しくする——そんな茶器を目指しています。」

― 海外でもJINSUIの器は高い評価を受けていますね。
渡邉:
「ありがたいことに、ヨーロッパや北米を中心に人気があります。
特に欧州のお客様は、“文化的背景”を理解して選んでくださる方が多い。
だからこそ、日本の美意識を大切にしつつ、デザインはモダンに仕上げています。
ブランドの価値を守るためにも、“きちんと伝わる人に届ける”ということを大切にしています。ブランドを大切にしてくださるお客様に長く愛されるブランドにしていこうという気持ちが強いです。国内外問わず、妥協せずJINSUIの理念を理解してくださるお客様に届けたいということの方が大事だと感じています。」

― 工房では女性スタッフが多い印象があります。採用にもこだわりがあるのでしょうか?
渡邉:
「はい。履歴書の経歴よりも、“思いやり”があるかどうかを見ています。
思いやりのある人は、手仕事にもそれが現れるんです。
職人の技術だけでなく、使う人への想いが込められていることが大切。
工房では女性が多いですが、それは自然な流れでした。
“思いやり”を軸にチームを作ると、結果的に女性が多くなったという感じです。女性はみんなで協力し、目の前の仕事に真摯に取り組んでくださる方が多いというのが私の印象です。家庭の事情で長い時間を働けなくても、時間内で期待以上の仕事してくださる。それが結果うちの職場に女性が多いということなのかもしれません。」

― 最後に、JINSUIとしてこれから目指す姿を教えてください。
渡邉:
「“伝統 × 現代”というのが、うちのブランドのコンセプトです。
伝統を大切にしながらも、今の時代に合う表現をしていく。
常滑に根を張りながら、視線は世界へ。
伝統工芸は過去のものではなく、今を生きる人の暮らしの中で
新しい価値を生み出せると思っています。」

渡邉さんの言葉のひとつひとつから伝わってくるのは、
“伝統を継ぐ”ということの重さではなく、“伝統をモダンに昇華して世界に向けて挑戦する姿勢”の力強さでした。
常滑の土が持つ素朴な美しさに、渡邉さんの感性と現代的なデザインが重なり、
JINSUIの器は、ただの道具ではなく「時間を味わうための作品」へと昇華しています。
手に取った瞬間の軽さ、指先に伝わる温もり、そして静かに放たれる存在感。
そのすべてが、使う人の暮らしを少し特別にしてくれます。
伝統を超えて、現代の美意識とともに進化するJINSUI。
あなたの食卓にも、その“時を忘れるような美しさ”を迎えてみませんか